歯周病

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歯周病の歴史、そしてその概要

昔、「花王石鹸」という会社がありましたが、十数年前に「花王」と社名変更されました。石鹸を代表とした洗剤のみならず、生理用ナプキン、化粧品、ソフトウェアと取り扱う商品群を広げていったからです。

医学の分野でも数年前に「成人病」の呼称が変更され、現在では「生活習慣病」といいます。 これは、成人病が成人だけに特定されるものではなくなってきたからであり、糖尿、高血圧、肥満など、成人病という呼称でひとくくりにされてきたものが、主に生活上の習慣によるところが大きいからです。

さて、年寄った方には「歯槽膿漏」と言った方が馴染みがあるであろう、現在では「歯周病」と呼んでいる疾患は、どのようなものなのでしょうか? そしてなぜ、歯槽膿漏から歯周病と呼ぶようになったのでしょうか?

ここに「新編歯槽膿漏症の療法」という、日本歯科医師会から昭和41年に出版された本があります。 その巻頭に次のようにあります。

  • ●昭和36年に歯槽膿漏症の治療指針が告示され、歯科二大疾患の一つでありながら なおざりにされてきた歯槽膿漏症が脚光を浴び・・・・・
  • ●歯槽膿漏症療法指針といったものが欲しいという話は数年前からあったのだが、 なにぶんにもその原因、本態がはっきりしない本症の性質上、多分に困難が予想されるのでついのびのびになっておった・・・・・(昭和35年初版の序)

国民皆保険の施行が確か昭和36年ですから、これを前に初版は書かれたのでしょう。

ここで注目していただきたいのは太字で書いてあるところなのです。
昭和35年(1960年)当時は、歯槽膿漏というのは見て見ぬ振りをされてきたという事実なのです。上記の本において、その治療方法がかなりの程度まで書かれており、今読んでみてもほとんど違和感を覚えません。
すなわち、この40年間は、歯槽膿漏の治療に関してはあまり進歩していない、こういった治療方法が臨床に根づくまでに40年かかった、ということがいえるのではないでしょうか。
昭和30年代当時は、対症療法、あるいは歯が揺れてきたから抜く、といった場当たり的なやり方がむしろ主流であり、治療というよりも敗戦処理といったほうが的を得ていたように思います。
今年は西暦で2004年ですから、現在70歳代以上のお年寄りの入れ歯、ことに総入れ歯に頼る比率が高いのも、うなずけます。

8020運動、なるものをご存知でしょうか?
80歳で20本の歯を残そう、というスローガンなのですが、こんなことはひとり患者さんが努力してみても始まりません。上記の歴史を踏まえて歯科医療業界の反省のもとに出てきた言葉なのです。
これまでおかまいなく歯を抜いてきましたが、これからは頑張りますので許してください、ってことじゃないでしょうかねぇ。

さて、歯周病というのはどんな疾患なのでしょうか?

ひとことで言うと、骨を溶かす疾患ということになるでしょうね。
歯周病を意識されておいでになる患者さんというのは、だいたい30代から50代が多いです。
しからば、歯周病というのは中年になって始まるのでしょうか?
いいえ。すでに10代から始まっているとお考え下さい。
中学生の子供でも歯茎から出血するといって来院することもあります。これは歯周病の初期歯肉炎ですねぇ。
10代20代のツケが30代以降になって廻ってくるということです。
そしてこの時期になると歯茎から出血するのみならず、歯周組織の破壊も見られるようになっています。これを「歯周炎」と呼んでいるのです。
歯周炎では歯の根を支えている歯槽骨の破壊も、程度の差はあるものの見られるのです。これが高じてきて、歯が揺れることにつながるのです。
現段階では、おそらくは今後とも限られた場合を除いては、一度破壊された骨をもう一度作ってくることはできません。 そこで歯周病の治療というのは、破壊された骨の位置まで歯肉を近づけて行き、歯周病の原因となる細菌群をできうる限り取り除き、細菌群がたまりにくい状態を作り上げ、歯周病の進行をくいとめるのです。
治すのではありません。歯周病を治すことはできません。少なくとも現段階では不可能です。

口の中に住む数百種類ともいわれる細菌(口腔内細菌)はどんな働きをしているのでしょうか。細菌と人間とは、共生関係 といって持ちつ持たれつの関係にあります。
口腔内細菌もその例外ではないでしょう。しかし彼らのもたらす不利益に対する研究はあっても、彼らのもたらす利益に関しては、私の知る限り研究がなされていません。
人間の身体に住み着くことで、細菌は栄養の安定供給にあずかれます。
それでは逆に、口腔内細菌はどんな利益を我々にもたらしてくれているのでしょうか。これはあくまで推測の域を出ないのですが、消化酵素の生成免疫機構に関与する物質の生産、あるいはある種のホルモンの生産-----そのひとつに成長ホルモンの製造があるという記事を本で読んだことがあります-----を担っているのではないかと思われます。

適当な量であるのならば共生関係にある、口腔内細菌と人間の抵抗力との平衡関係が崩れたときに、炎症となり症状として現れてくると考えるのが自然でしょう。 したがって、歯ブラシをして歯垢を取ることをプラークコントロールといい、プラークリムーバルともプラークエリミネイションともいわないのではないでしょうか。

さて、歯科医学の研究者たちも手をこまねいていた訳ではありません。
数多の口腔内細菌の中から、歯槽膿漏を引き起こすであろう原因菌の特定、その動態の分析等々の研究、あるいは現場では、新たな手術法の開発とその経過観察などを行ってきたのです。 そういったなかで歯槽膿漏というのはもっと包括的な枠組みで云々しなくてはいけないことがわかってきました。
そうして、以前は歯槽膿漏とは直接的な結びつきはないと考えられていた症状までも含めて議論しなくてはならなくなったのです。
こういった経緯があり、新しい呼び名 「歯周病」 の登場となるわけです。これは昭和40年代前半のことでした。