‘いい歯医者’ と ‘うまい歯医者’ とは違います
数年前のことですが、高校時代の友達(川田春雄)から電話がかかってきました。
- 川田:
- いま歯医者に行ってるんだけどさあ、奥のほうの歯を抜いてインプラントにしないとダメだって言われたんだよお。まいったよ、そんなに悪いと思ってないんだ。けどさあ、どうにかならねえかよ?
- 私:
- 診てみなきゃあ、わかんねえなあ。診ないことには何ともいえないよ。 抜くと言われた歯の歯周ポケットはどれくらいあるんだあ?
- 川田:
- なにそれ?
- 私:
- “抜かなきゃいかん” と言うからにはその根拠を話してただろ、歯医者さあ?
- 川田:
- いや別に。“抜歯しないとだめですよ”っていうから、 “そうですかあ。だけどインプラントは高いからちょっと考えさせて” と言って帰ってきたよ。
- 私:
- おまえさあ、どうしてそこの歯医者に行ったの?
- 川田:
- 会社の同僚が‘いい歯医者だ'って言うから行ってみたんだよ。
- 私:
- ほー、何がいいの?
- 川田:
- 何がって、いいって言うんだから悪い訳ないだろ?何言ってんの、おまえ?
皆さんの言う ‘いい歯医者’ の条件は何でしょうか?
- やさしい
- 痛くない
- 混んでいる(はやっている ---とも言いますね)
- 歯を抜かない
- 一連の治療が早く終わる、安い
- 待たせない
- 説明してくれる
こんなところでしょうかねえ。
やさしさについて
誰だって、優しくないより優しくされた方がいいに決まっています。
ですけどねえ、彼氏とか帝国ホテルのボーイさんに求めるような優しさを歯医者に求めてどーすんの?いつもニコニコしていたら満足ですか?おためごかしの優しさなんか優しさじゃないですよ。
歯科医にはひたすら ‘いい治療'を求めてくださいよ。
そのためには知識を持たなくてはいけません。
痛みについて
歯科治療はその性格上、全く痛みを感じずに治療をまっとうすることはかなり難しいと思います。
たとえば、根っこの治療をするときに、根っこの先端が正常な組織であるのならば、そこをつつくと若干の痛みを感じます。その痛いと感じたところまでをきっちりと治療していかなきゃあいけないからです。痛みを感じる直前で止めるのなんて、それこそ神様じゃないとできませんね。逆にそこまで到達させなければ、痛みを感じることはありませんよね?
それでは不十分な治療になってしまいます。
混んでることについて
100メートルを5秒で走ることは可能でしょうか?
一日に何十人も治療するということはそういうことです。
歯科治療というのは、単純ですが精密さがすごく要求されるのです。ですから診療中は、息を凝らして治療対象の歯をジッと見据えているのです。音楽を聴きながら、鼻歌をうたいながらできるもんじゃないですよ。 歯科医も人間ですからねえ、次から次へと患者さんがくれば焦りもします。
“ごめーん、ちょっとまちがっちゃったあ” なんて言われたらどーします? 間違ってもそんなこと言いはしないでしょうけど。
それにねえ、チャンバラじゃあるまいし、八艘飛びよろしく1対5の治療なんて、患者をナメテルとしか思えませんねえ。
歯科医が不足していた時代ならいざしらず、今は対症療法の時代ではなく、計画診療の時代ですよ。 15分で済む手続きもあれば、2時間とらなきゃいけない場合もあるのです。ですから予約をとって診療しているのです。
だけど、イタイイタイ、と言って患者さんが飛び込んできたらやむを得ません。治療中の患者さんに待ってもらってでも処置しますよ。
いい歯医者は混ませませんね。いくらでも患者大歓迎、と言うことはないでしょう。
歯を抜かないということ
歯の治療というのは10年後を見据えて行わなくてはいけません。
これは10年でダメになることを意味してはおりません。10年間問題なく機能するということです。
2,3年でダメになり、やり直さなきゃいけなくなるのなら、そんなのは治療じゃないですよ。
数年しか信頼できないとか、それがあることによって隣の歯(隣在歯)に悪影響を及ぼすことが予測できる場合は、迷わず抜くことになります。
早くて安いということ
はやい、やすい、うまい。これはどこかの牛丼屋の謳い文句ですね。
しかし歯科治療においては当てはまりません。
だって治すのはあくまで患者さんの治癒力なんですからね、待つのも治療なんですよ。
いかなる場合も、慌てるとロクなことはありません。
ゆっくり、じっくり、そして万全に行うのが、‘いい治療' だと思います。
そして、いいものはそれなりの値段がするものですよ。それが資本主義じゃないでしょうか。
待たせるということ
歯科治療では、行うのも受けるのも人間であって機械ではありません。
時間通りに事が進まないことも多いですねえ。予定より早く終わることもあれば、遅れることもしばしばです。
急患が入ってしまったりすればなおさらですね。歯医者で待たないことはなかなか難しいでしょうね。しかし、待たせるのならそれなりの説明と謝罪があってしかるべきだとは思います。
説明と同意(インフォームドコンセント)について
虫歯には進行性と停滞性とがあることとか、歯周病の定義だとか、ご存じない患者さんが多いですねえ。
いかに説明されていないかという証左ですね。
“ここに虫歯があるから削っときますねえ”
なんて言うのは、説明でも何でもありません。単にお許しをいただいているだけでしょう。
説明と言うのは、現在どのような状況にあり、このままでは今後どうなるのか、だからどういう処置が必要なのかを明らかにし、納得してもらった上で治療にはいるということです。
冒頭に引き合いに出した川田春雄君は、平成15年の7月に肺がんのため、50歳でこの世を去りました。
後日、細君に聞いたのですが、病気療養のため会社を辞めてからしばらくは小康状態にあったので、
“大澤のとこに歯の治療に行きたいなあ” と話していたそうです。
高校3年の時に、中学校の同級生をぼくの彼女にと紹介してくれた時から親しくさせてもらってきました。
彼女との最初のデートの前日、大宮公園でデートするようプランを練ってくれ、しかもリハーサル(?)を行ってくれたような西條秀樹似の優しい男でした。
川田よ 安らかに眠れよ合掌
次のページ→‘うまい歯医者’はどこが違うの?
▲‘いい歯医者’ と ‘うまい歯医者’ とは違いますのTOPへ
バーコードで
携帯サイトを表示できます






